駅前第四ビルが愛した植樹

何も持たない君に、武器はもう必要ない。

駅前第四ビルが愛した植樹

ミニマリストA子のたった26年間の人生

このカテゴリーで書いていくのは、ミニマリストA子こと、私の娘の話です。 私の長女、A子は26歳で他界しました。彼女の慎ましい人生はまさに、ミニマリストそのものだったと述懐しています。

駅前第四ビルの最後の嘆き

私はなぜか恐ろしくて、ただ震えている。 だから帰るために、駅へ向かったでのある。 駅前でバスをおりて、雑貨屋へ立ち寄ることにした。 店先は明るかったが店内に入ると薄暗かった。それでも少し埃っぽい臭いが私にとってはときめきで、小さなころ、ここで…

六度の跳躍

「足もとに気ぃつけて、しっかり地面を踏みしめろよ」 浴衣姿でこんな危うい石段を、なんのために無理しておりなければならないのか、それを考えだすと気が狂いそうになる。 頼りになるのは鈍い明かりを放つ懐中電灯だけだった。 隣にいる淳平が手を引いて先…

精霊流しか、花吹雪

なにがなんだかわからぬままに、淳平が運転する軽トラックに乗せられた。 「出発じゃ」 とにかくお尻が痛い。 天井に頭をぶつけた回数も、五回をすぎたころから数えるのをやめた。 「ねえ淳平、いったいどこへ行くつもりなの?」 どうも身の危険を感じたりも…

魔方陣の中心で

次はあれじゃ、淳平は自慢げにメリーゴーランドを指さした。 そこにもご丁寧なことに、ゴマのような豆電球が山ほど振りかけてあった。 「あんなもん、いったいどこから調達してきたのよ」 駅前の電気屋さんの倉庫を調べてみても、ここまで大量の豆電球がある…

凱旋門みたいなもんやと思うてくれたらええわ

私の部屋は二階の隅にあった。八畳ほどの和室である。 ところが入り口近くに置いてある勉強机のおかげで、今となってはなんだかひどく狭いように感じてしまう。 その横にはファンシーケースが並んでいて、周囲には昔、読んだ雑誌なんかが山のように積んであ…

親を捨てる娘と親に見限られた子供

淳平はなんと、役場に勤めているらしい。 ということは、私の父とは同僚ということになる。どちらにしても、この村で暮らすには、それしか方法はないのかもしれない。 「何ぃしてるんや、A子、はよう乗れや」 淳平のやつが、おかしなことを言いだした。 「え…

穴の開いてないちくわ

空がやや赤らんできたことに気がついて、過去に向かった私の時間はようやく元の鞘に収まった。 結局私は、後からやって来たバスに乗せてもらうことになる。 一番、後ろの座席に腰を下ろして、そこから車内の様子を見渡した。乗客の姿は残念ながらどこにもな…

バッタやカブトムシの中に監禁された自分

三匹のピラニアは今ごろ、どうしているのだろうか。 もう一度会ってみたい気もするし、二度と会いたくない気持ちも多少はある。 わがままではあるけれど、いつまでもあのころのままでいてほしいと、願っている。 彼らには意地の悪いところもたくさんあったが…

ツチノコ、探しに行くんやろ

健次や辰男、それに淳平にしたって村では裕福な暮らしとはいえなかった。 その村でさえ、都会どころか近くの町と比べても、貧乏くさくて悲惨だったというんだから、絶対的な貧困度を日本全国で比較すれば、私たちは相当下位の部類であったと断言できる。 お…

パンツを買え

こうなると少年たちはまた三人より固まって、知恵を絞る以外に私を説得するすべを所持していない。 しばらく待つとようやく結論が出たらしく、三人そろって私の前でおじぎをした。 『パンパカパーン』 辰男のやつが調子をこいて、奇声をあげる。次に健次が一…

村唯一の風俗店が、ついに開店します

さあいよいよ決勝戦が始まった。 健次と淳平は腰を落としてにらみ合う。 気合とともにむっつりスケベの淳平が健次の懐へ飛び込んだ。 健次は両腕を使えない。胸を反らして踏ん張るような体勢で、迎え撃とうとしている。 だが淳平はなかなかの巧者で、相手の…

むっつりスケベの淳平

ようやく河原から上がって先へ進んだ。 私は伸び上がるようにしながら胸を揺らせ、青い空に向かってはじけるような笑い声を響かせた。 歩きだすとまた、あのころの記憶が蘇ってくる。

金魚鉢の中のピラニア

しばし足を止めて、高ぶった気持ちを静めようとした。 水の流れる音に耳を傾ける。 こういう場所に立ち、余分な思考を頭から追い出しながらあたりを見渡すと、不意に蘇ってくる記憶があり、ときに驚かされる。

愛想の良い駅長さん

B子はきっと怒っているに違いなかった。 首を反らしながら、空に向かって語りかけた。携帯の電源も夕べから切ったままだったし、連絡も取れなかったから心配して、また私の部屋を訪ねてくれたかもしれないと思う。 でも今しばらくは、誰とも会いたくなかった…

優しさには報酬はない

何度目かの呪文を唱えた後に、ようやくA子のアパートの前に立った。 それにしても、悲惨だ。 この建物のことである。A子はこの建物を常々マンションだと言い張ったが、私からいわせればここは、間違いなく文化住宅である。

魔女が唱える、男にならないための呪文

警察沙汰は初めてじゃなかった。 それなりの罰も覚悟したが、奥さんは血みどろだった割に、軽傷だったという話である。 しかもどうやら、彼が口をきいてくれたみたいで、事を穏便に済ませる気であるらしかった。

愛情表現はどこまでいっても猟奇的

なんだかとてもむかむかした。 気持ちがどうにもおさまらないもんだから、地下鉄の改札を出て向かいの階段を一気にかけあがる。

私は切符を一気に飲み込んだ

前から来る自動車のヘッドライトが眩しくて、思わず目を細めたら「おっとっとっ」みないな感じで、私は頼りなく蹌踉めいた。 昨日の暴風雨のせいで、空気に混じった異物が一切、流れ落ちたような感じがする。不思議なんだけど何だかすっきり、すがすがしい気…

駅前第四ビルの憂鬱な日常

どうやら僕は悪質なガンに、体じゅうを蝕まれているようだった。 地下四階から、地上二十五階に至るまで、残らずガンに浸食されている。末期的な症状であることは、僕自身も十分に自覚していたが、だからといって嘆く言葉もさらさらなくて、沈黙のままで唖然…