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駅前第四ビルが愛した植樹

何も持たない君に、武器はもう必要ない。

大阪 阪神高速の夜

左手にはグリコの看板があり、横にはツレがいました。

大阪 阪神高速の夜

道頓堀川が揺れています。

この橋って昔は「ひっかけ橋」なんて言われれていました。ですが残念ながら、私はここでひっかけようとして、成功したためしはありません。

阪神タイガースが優勝すると、ここから道頓堀川に飛び込むやつが、数人でます。

「あいつら、あほやな。便器に飛び込むのと、同じやぞ」 ツレがそんなことを言いながら、笑いました。

高校生のころ、この近くのビアガーデンでアルバイトをしていました。私が育った家からここらまで来るのに、自転車で20分くらいで来られたので、いわば地元のような町でした。

大阪の下町で生まれたことが、ずっとイヤでした。

騒々しくて柄が悪くて、品性の欠片もなくて、繊細な神経なんてどこをどう探してみても見つからない。だから泣きたくなるくらい、私は私の町が嫌いでした。

目につくものすべてが、どうしようなくイヤでした。

アルバイトで遅くなると、その辺でおかしな奴らに絡まれて、薄暗い路地へ連れ込まれてボコられる。ポケットの底の底まで調べられて、金目のもんは何でも持っていかれました。

釜ヶ崎で暴動が起こると、火炎瓶をみんながそこらじゅうに放り投げて、他人のことなんか一切、構わない人間たちがしゃしゃり出てきます。

しゃしゃり出た人間たちが寄り固まって、それから村になって、やがて町になる。

それが大阪の正体でした。

私はそこから逃げ出したくて、必死になって考えました。

考えれば考えるほど、私は他人のことなんか一切、構わない人間になってしまい、暴動を見物しながら笑っていました。

おかしな奴らに絡まれそうになっても、うまく逃げのびて、ポケットの中のモノを他人に盗られることも、やがてなくなりました。

いつの間にか私は町に馴染んで、町のほうだって、私を受け入れるようになったのです。

だけどやっぱり、私は嫌いでした。

生まれた町がイヤでした。

給料を必死に貯めたのは、車が欲しかったからです。

車を買えば、本物の足が生えてくるような感じがしました。

ツレは早くから自分の車を持っていて、土曜の夜になると、阪神高速の環状線をぐるぐる回りに行きました。当時は今よりもずっと夜が凶暴で、若い奴らがいきがって、車の腹をこすりながら火花を散らして駆け抜けて行きました。

カーステでキャロルをガンガン聞きながら、走るのです。

今から考えれば、まるでアメリカングラフィティのような夜でした。

車のヘッドライトがまぶしくて、目を細める間もなく、あっという間に時が流れてしまいます。

考えるよりも時計の針が動くほうが、ずっと速かった。いつだって小走りに呼吸をしないと酸欠になりそうな夜でした。

運よく相手を見つけた日は、そのまま信貴生駒ハイウェイをドライブします。

そこでもやっぱり、キャロルがかかってました。

だけど頂上の遊園地の駐車場で、暴走族が集会をやっていることがよくあって、追いかけられて、ビール瓶を投げつけられて、車が傷だらけになって、真っ青になって逃げだしたこともありました。

それでもツレは笑っていました。

私だって底抜けに、笑っていました。

何が可笑しくて笑っていたのか、今となってはよくわかりませんが、とにかく私たちはどうしようもなく、楽しかったのです。

心の底から嫌いな町で、私とツレは土曜日の夜になると、阪神高速の環状線をぐるぐる回る。しこたま目を回しながら、そこらじゅうを逃げ回って朝を迎えるのです。

今だって何が楽しかったのか、よくわかっていません。いつだって怖かったし、怯えていました。

でも私とツレは、腹の底から笑っていました。

あの町を出てから、私はあれほど底抜けに笑ったことがありません。

なぜ私とツレは、あの凶暴な夜に身を置きながら、バカみたいに笑えたのでしょうか。

本当に、不思議です。

そんなツレが、今年の三月に亡くなりました。

ガンだったそうです。

心よりのご冥福を、お祈り申し上げます。

こんな余所行きの言葉では送れそうにはないけれど、大阪、阪神高速の夜を、私は生涯、忘れません。

最後まで読んでくれて、本当にありがとうございました。

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